4. 私が今まで出会ったチェンバロ(海外編)

 1982年にベルギーに留学した私は、まずコーネン先生のお宅に伺いました。そこに置いてあったのはオリジナルのチェンバロでした。中世の街並が残っているブリュッセルにオリジナルのチェンバロ。私は夢の中にいるみたいでした。

 先生の楽器は1755年にアントワープで製作されたデュルケンです。鍵盤がとても軽くて、本当に繊細なタッチが要求されます。鍵盤の幅がピアノと同じぐらい広いので、手の小さい私にはちょっと厳しいものがありました。弾いたことのないタイプの楽器だったので、最初はとまどいましたが、弾いているうちに楽器が色々なことを教えてくれるようになりました。こういう楽器はそうそうありません。

 私の演奏会の時は先生がこのオリジナルをみずから運んで調律もしてくれました。当時は何もわからなかったので甘えてしたのですが、今は、なんてお世話になったんだろう、と思います。調律の仕方は決まっていなくて「今日は何調と何調を弾く?」と聞くので「何調と何調」と答えると「わかった」と言ってササッとやってくれるのです。それがとてもきれいに調律されているんです。このやり方は今でも私にはできません。

 留学して最初の一ヶ月は住むところが決まっていなかったので、楽器博物館のオリジナルで練習させてもらいました。これも夢のような事でした。残念なことに今はどこの楽器博物館も弾かせてもらえないそうです。

 パリの楽器博物館では、3台のオリジナルを弾くことができました。タスカン、エムシュ、そして私の持っている楽器のもと、グジョンです。グジョンは私の楽器とよく似ていて、とても嬉しかったのを覚えています。どの楽器も個性があり、何時間弾いていても飽きませんでした。

 1985年に帰国しましたが、86年にはブリュッセルでリサイタルを開いてくれ、また渡欧しました。その時もコーネン先生がオリジナルを貸してくれました。久し振りに弾くデュルケンだったのでなかなか感触がつかめず、苦労しました。

 その年はブルージュでコンクールがあったので聴きにいきました。楽器の展示もあって自由に試奏できるので、私も色々な楽器を弾いてみましたが、その中でとても気に入ったものがありました。デビッド・レイ氏作でブランシェのコピーでした。

 装飾も素晴らしく何より、弾いていて手にピタッとくるのです。他にもいい楽器はあったのですが、「私には弾きこなせない」と思ったものもありました。楽器に自分が負けてしまうのです。その点、レイ氏の楽器は余計な事をしなくても楽器がちゃんと答えてくれるのです。夢中になって弾いていたら、レイ氏が声をかけてくれ、パリ郊外のアトリエにも遊びに行きました。

 その後は一時曽根麻矢子さんが所有していたので、パリに行った時に弾かせてもらいました。7年ぶりに弾いたので「感動の再会」という感じでした。

 その楽器は現在は日本のアマチュアの方が所有しています。私は今でも時々その楽器を弾きに行きますが、いつも新たな発見があります。


2000.5.20