11. 第17回古楽コンクールを聴いて

 

 4月26、27日に甲府で開かれた古楽コンクールを聴きに行ってきました。このコンクールには伴奏者として参加したことはありましたが、聴くのは初めてです。今回は私のところで8ヶ月ほど勉強し、今ミラノで勉強している生徒が受けたので、応援もあって行ったわけです。

 今年はチェンバロ、手鍵盤のみのオルガン、そしてアンサンブル部門でしたがチェンバロ部門以外の応募者はありませんでした。24名がエントリーしましたが、3名が棄権、予選は21名の演奏を聴きました。

 予選の課題は1)P.フィリップス:'Amarilli'か'Fecedavoi'とラモ:クラヴサン曲集第1集を12分程度にまとめたものの組み合わ せか、2)パッヘルベル:《Hexachordum Apollinis》より任意のアリアとJ.S.バッハ:ファンタジーとフーガイ短調(BWV903)の組み合わせ、そして通奏低音課題はヘンデルのヴァ イオリンソナタイ長調(HWV361)か、リコーダーソナタヘ長調(HWV369)から応募者が選択したものでした。

 ステージにはソロ用に楽器が3台(フレミッシュ、イタリアン、フレンチ)と、通奏低音用に3台(ジャーマン、イタリアン、フレミッシュ)が並べられ、各 自が選択できるようになっていました。予選を聴いて驚いたことは、皆テクニックがしっかりしていたことです。中にはピアノっぽい弾き方をしていた人も何人 か見受けられましたが、途中でくずれたりミスを多発する人が少なかったです。ただ、初期ものは様式感に欠ける人も多くいました。また、通奏低音課題はス テージ上で初めてソロ奏者と合わせたにもかかわらず、皆きちんと合わせていて感心しました。

 予選は夜7時半ごろまでかかり、結果が発表された頃には8時半をまわっていました。7名が本選に進みましたが、私の予想とほぼ一致していました。本選に 残ったのは、やはり個性があり、自分のやりたいことを聴衆にわかるような演奏をしていた人達でした。私の生徒は演奏順が1番だったので、耳が慣れていなく て審査員にどのような評価を受けるか心配でしたが、無事予選を通過しました。

 本選では展示会に出品された36台の楽器からどれを弾いてもよかったので、生徒の楽器選びに少し付き合い、ホテルに泊まりました。翌日の本選では自由曲 (12分程度)、ソレルのソナタより奏者が選んだ2曲の中から組み合わせを前日に発表されました。そして予選でラモを弾かなかった人はラモ、バッハを弾か なかった人はバッハを弾くように、とのことでした。通奏低音課題はヘンデルのカンタータ《Lucrezia》よりあらかじめ決められたレチタチーヴォとア リアでした。午前中に4人が弾きましたが、皆さんややあがっていたのか、特にバッハでくずれた人が目立ちました。バッハはどの曲もそうですが、1度くずれ るとガタガタと行きやすく、こわいです。

 午後の3人は比較的落ち着いていましたが、皆さん「安全運転」になってしまったような気がしました。予選でも感じたのですが、バッハは推進力のあるエネ ルギッシュな演奏をした方がいませんでした。ラモは、クーラント、ジーグで躍動感に欠けた人が多かったです。通奏低音はヘ短調という難しい調であるにも拘 らず、皆きちんと弾けていました。ただ、これは全体的な傾向だったのですが、和音の入れ方が皆似かよっていて、すごく主張したい和音のインパクトが弱かっ たことと、裏にまわる音がなかったのが気になりました。

 午後3時から昨年の入賞者による演奏会が行われた後、5時から結果が発表されました。表彰式を前にして、審査委員長の有村祐輔先生が「ピアノは人間が弾 いても猫が弾いても同じ音がすると言った人がいるが、チェンバロもそう思われがちです。でも、実際は弾く人によってまったく違った音がするのです」とおっ しゃっていました。欲を言えば「チェンバロらしい音」を出していた人がとても少なかったです。

 3位はイタリアから来たBenuzziさん、2位に松岡友子さん、 そして久々に出たという1位には野澤知子さんが選ばれました。(松岡さん、おめでとう!)Benuzziさんは通奏低音に難があったものの、日本人にはな い良さを持っていました。松岡さんは音がとてもきれいでした。まだ若いので、経験を積めばどんどん良くなるでしょう。野澤さんの演奏は2年ほど前に聴きま したが、その当時はまだピアノ的な弾き方をしていたものの、今回はテクニックもしっかりし、すでに成熟した音楽を聴かせてくれました。

 残念だったのはお客さんの数がとても少なかったこと。あんなにたくさんの楽器が展示され未来をしょってたつであろう奏者が揃うわけですから、もっとたく さんの人が応援してくれればと思いました。2日間皆さんの演奏を聴き、音楽に対する真摯な姿勢に心をうたれ、私も新たな気持ちで音楽をやっていこうという 気持ちになりました。